道が見えないだけで、迷子じゃないという話|RMのスピーチとシュロスバーグの転機理論|推し活と、キャリアの話 #07

道が見えないだけで、迷子じゃない|推し活と、キャリアの話 キャリア

2021年9月、コロナ禍の国連総会に、BTSが登壇した。

当時、10代・20代は「コロナのロストジェネレーション(失われた世代)」と呼ばれていた。

いちばん多様な経験が必要な時期に、学校も、出会いも、機会も失った世代だ、と。

そのラベルに対して、ナムさんはこう返した。

彼らの歩く道が大人の目に見えないからといって、道に迷っていると言うのは無理があると思います。

(BTS 国連総会SDGモーメント・2021年9月20日より、筆者訳)

そしてスピーチは、

「ロストジェネレーションではなく、ウェルカムジェネレーションと呼びたい。
変化を恐れるかわりに『ようこそ』と言って前に進み続ける世代だから」

という言葉で締めくくられた。

若者向けのスピーチだ。

でも私はこれを、大人にこそ効く言葉だと思って何度も反芻している。


「迷子」と言っているのは、誰の目線か

「道に迷っている」という言葉には、前提が隠れている。

地図に載っている道だけが、道だという前提だ。

新卒で入社して、同じ会社で昇進して、定年まで勤める。
地図にはっきり印刷された、太い道。
そこから外れた瞬間、人は「迷っている人」として扱われがちだ。

転職を繰り返す人。
仕事を辞めて学び直す人。
会社員をしながら副業を育てる人。

履歴書の上で線がまっすぐに見えないだけで。

ナムさんの言葉は、その前提をひっくり返す。
見えないのは、道がないからじゃない。あなたの地図が古いからだ。

私自身、いま会社員と個人事業主の二足のわらじという「地図にない道」を歩いている。

正直、たまに不安になる。

この道で合っているのか、誰にも確認できないから。

でもそれは迷子だからではなく、まだ地図に載っていない道を歩いているからなのだと、この言葉が思い出させてくれる。


シュロスバーグ:転機は「迷い」ではなく「点検」で乗りこえる

キャリア理論でこの話に一番近いのが、ナンシー・シュロスバーグの転機(トランジション)理論だ。

シュロスバーグは、人生の転機を3種類に分けた。

  1. 予期していた転機——就職、結婚、異動など、来ると分かっていたもの
  2. 予期していなかった転機——突然の失業、病気、パンデミック
  3. 期待していたのに、起こらなかった転機——来るはずだった昇進が来ない。あるはずだった話が消える

3つ目まで「転機」に数えるのが、この理論の優しいところだと思う。

何も起きなかったことに傷ついている人を、ちゃんと転機のただ中にいる人として扱ってくれる。

そしてシュロスバーグは、転機を乗り切る鍵は「迷わないこと」ではなく、
4つの資源(4S)を点検することだと言った。

  • Situation(状況)——いま何が起きているか。時期は最悪か、まだましか
  • Self(自分)——自分の強み、経験、価値観という持ち札
  • Support(支え)——頼れる人、制度、場所はどこにあるか
  • Strategies(戦略)——打てる手をいくつ持っているか

道が見えないとき、必要なのは「正しい道はどれか」という問いではなく、この4つの棚卸しだ。

地図がなくても、装備の点検はできる。

装備が整っている人を、迷子とは呼ばない。


「ようこそ」と言う側にまわる

コロナの時期に限らず、働き方の地図はどんどん古くなっている。
地図の更新より、歩く人の変化のほうが速い。

だったら、変化を恐れて古い道に戻ろうとするより、
あのスピーチのように「ようこそ」と言って前に進むほうがいい。

それは根拠のない楽観ではなくて、4Sを点検した人の楽観であってほしいと思う。


やってみてほしいこと:転機の棚卸し

いま気になっている変化をひとつ思い浮かべて、書き出してみてほしい。

  1. その変化は3種類のどれ?(予期した/予期しなかった/起こらなかった
  2. 4Sをひとつずつ点検する——状況・自分の持ち札・頼れる支え・打てる手
  3. 4つのうち、いちばん手薄なところをひとつだけ補強する

「起こらなかった転機」に心当たりがある人は、それを転機として数えていい、というだけで少し楽になるはずだ。

シュロスバーグを含む理論家7人の物語は、こちらの本にまとめている。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0H98WPWSJ


おわりに

道が見えないだけで、迷子じゃない。
地図にない道を歩いている人の足元には、歩いたぶんだけ道ができている。

振り返ればちゃんと見える。

それを最初に言葉にしてくれたのが、私の推しだったことを、少し誇らしく思っている。


【参考】

  • BTS 国連総会SDGモーメント スピーチ(2021年9月20日)
  • ナンシー・K・シュロスバーグ「転機(トランジション)理論・4S」

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