キャリアに迷ったとき、読む話|サビカス編

AI活用

「あなたのキャリアを、一言で説明してください」

もしそう聞かれたら、私はしばらく黙ってしまうと思う。

就職情報会社で広報・PRの仕事をしながら、大学で就活生向けの講座に登壇して、ヨガ講師の資格を取って教えて、いつの間にかAIにハマって、資格を取って、開業届を出そうとしている。

書き出してみると、我ながらバラバラである。

「で、結局あなたは何の人なんですか?」と聞かれたら困る経歴だ。

キャリアの相談に乗っていると、同じ悩みによく出会う。

「私、一貫性がないんです」「点々としてきたので、強みと言えるものがなくて」

——転職回数や、やりたいことの変遷を「弱み」として語る人は多い。

でも、それを真っ向から否定した理論家がいる。

マーク・サビカス。

「キャリアは物語だ。あなたの経験はすべて、一本の線でつながっている」と言った人だ。


サビカスって、どんな人?

マーク・L・サビカス(Mark L. Savickas)は1947年生まれ、アメリカの心理学者。

このシリーズの#3で紹介したドナルド・スーパーの弟子として出発し、師の理論を「物語」という視点で大きく発展させた人物だ。

彼が提唱したキャリア構成理論(Career Construction Theory)は、現代のキャリアカウンセリングに最も影響を与えた理論のひとつとされる。

インタビュー形式のカウンセリング手法「キャリア構成インタビュー(CCI)」は、いまも世界中のキャリアコンサルタントが実践している。

師匠のスーパーが「キャリアは段階的に発達する」と整理したのに対し、弟子のサビカスは「キャリアは本人が意味づけて構成する物語だ」と捉え直した。

師の理論を壊すのではなく、時代に合わせて語り直した

——その関係自体が、なんだかキャリアの物語っぽい。


なぜ「物語としてのキャリア」なのか

スーパーの時代(1950〜80年代)は、ひとつの会社で段階的にキャリアを積み上げるモデルが現実に機能していた。

でも21世紀に入り、終身雇用が崩れ、転職・副業・リスキリングが当たり前になると、

「決まった段階を登る」

モデルは現実に合わなくなっていく。

登る階段そのものが、途中でなくなったり、別の建物に移ったりする時代だ。

そこでサビカスはこう考えた。

「キャリアはゴールへの道ではなく、意味を作り続けるプロセスだ」

つまり、キャリアの価値は「どこまで登ったか」ではなく、

「自分の経験をどう意味づけて、どんな物語として語れるか」で決まる。

語り方が変われば、同じ経歴がまったく違うものになる。


キャリア構成理論の3つの柱

概念内容
職業的パーソナリティ能力・興味・価値観(何が得意で、何が好きか)
キャリアアダプタビリティ変化に対応する4つの力(次の節で紹介)
ライフテーマ人生を通じて繰り返されるパターン・物語

「何ができるか」だけでも、「変化に強いか」だけでもない。

この3つが揃って初めて、「自分のキャリアをどう語るか」が見えてくる。


キャリアアダプタビリティ(4C)とは

変化の多い時代に必要な「適応する力」を、サビカスは4つの次元で捉えた。

頭文字を取って4Cと呼ばれる。

4C内容自分への問い
Concern(関心)将来に目を向けられるか「5年後の自分を考えていますか?」
Control(統制)自分の選択に責任を持てるか「自分でキャリアを決めていますか?」
Curiosity(好奇心)可能性を探索しているか「新しいことを試していますか?」
Confidence(自信)困難を乗り越えられると思えるか「挑戦できると信じていますか?」

ポイントは、4Cは生まれつきの性格ではなく、育てられる力だということ。

「私は変化に弱いから」で終わりではなく、「どのCが弱っているか」を見て、そこから手をつければいい。


ライフテーマ:あなたのキャリアの「物語」を読む

サビカスが最も重視したのがライフテーマだ。

幼少期の記憶、憧れた人物、好きだった本や映画、繰り返し出てくる悩み

——一見バラバラなこれらの中に、その人の人生を貫くパターンが隠れている。それを読み解くと、キャリアの「物語」が見えてくる。

私自身の話をすると、冒頭の「バラバラな経歴」を振り返ったとき、ひとつだけ全部に共通していることがあった。

広報・PRは、会社と世の中をつなぐ仕事。キャリア講座は、学生と社会をつなぐ仕事。ヨガは、心と体をつなぐ時間。そしていまAIの活用を伝えているのは、テクノロジーと人をつなぎたいから。

全部、「何かと何かをつなぐこと」をしていた。

それに気づいたとき、バラバラだと思っていた点が、初めて一本の線になった。

屋号を「Tunagu Works」にしたのは、それからだ。

経歴に一貫性がなかったのではなく、私が自分の物語をまだ読めていなかっただけだった。


AI時代にこそ、サビカスが刺さる

生成AIで職務経歴書が数分で作れる時代になった。

「何ができるか」の言語化は、AIがかなり手伝ってくれる。

でも、「自分の人生をどう語るか」

——どの経験に意味を見出し、何を自分の物語の軸に置くか——

これを決められるのは自分だけだ。

むしろAIが作業を肩代わりしてくれるからこそ、残る問いは

「で、あなたは何者で、どこへ向かう物語なんですか?」

になる。

サビカスが教えてくれるのは、まさにその「物語を作る力」だ。


今日の問いかけ

最後に、サビカスの理論からヒントを得た問いをひとつ。

「あなたのこれまでの選択に、繰り返し出てくるものは何ですか? 人・場面・役割——どんな形でもいい。2回以上出てきたものを探してみてください」

それが、あなたのライフテーマの入り口かもしれない。


AIと一緒に「ライフテーマ」を探る

サビカス理論を自分に当てはめてみたいなら、以下のプロンプトを生成AIにそのままコピペしてみてください。

プロンプト①:幼少期の記憶から物語を見つける

私のキャリアのライフテーマを一緒に探してほしいです。
以下の質問に答えるので、私の答えからパターンや繰り返しを見つけてください。

・子どもの頃、憧れていた人物(架空・実在どちらでも)は誰ですか?その人のどこに惹かれましたか?
・小学生の頃、休み時間に何をして遊んでいましたか?
・子どもの頃、好きだった本・マンガ・映画は何ですか?どんな点が好きでしたか?

答えを聞いた後、共通するテーマを3つ以内で教えてください。

プロンプト②:キャリアアダプタビリティを自己評価する

キャリアアダプタビリティの4C(Concern・Control・Curiosity・Confidence)について、
私が今どのくらい持っているか一緒に確認したいです。
各項目について「1〜10点」で自己評価する質問を1つずつしてください。
最後に、私が特に育てると良い項目とその方法を教えてください。

もっと実践的にAIで整理したい方へ

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このシリーズでは、キャリア理論を「難しい学問」としてではなく、「今の自分に使えるヒント」として紹介しています。次回は、バンデューラという理論家をお届けします。


【参考】
・Savickas, M.L. (2011). Career Counseling. American Psychological Association.
・渡辺三枝子編著『新版 キャリアの心理学』ナカニシヤ出版

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