キャリアに迷ったとき、読む話|バンデューラ編

AI活用

「あなたには才能がある」と言われるより、「あなたにはできる」と言われるほうが、一歩を踏み出せた経験はないだろうか。

私にはある。生成AIパスポートの勉強を始めたとき、周りの誰も「あなたには才能がある」なんて言わなかった。でも「小さくやってみたらできた」という経験が積み重なって、気づけばAIを自分の会社のCEOに任命していた。

この「できる気がする」という感覚——心理学ではこれを自己効力感(セルフ・エフィカシー)と呼ぶ。名付け親は、アルバート・バンデューラ。そして実は、このシリーズ第1回のクランボルツ編に、すでに一度登場している人物だ。

バンデューラって、どんな人?

アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は1925年、カナダ・アルバータ州の小さな町に生まれた。スタンフォード大学で長年教鞭を取り、2021年に95歳で亡くなるまで、現代心理学に最も影響を与えた研究者の一人であり続けた。

彼を一躍有名にしたのは、1960年代の「ボボ人形実験」だ。子どもたちに、大人が人形を叩いたり蹴ったりする映像を見せると、子どもたちも同じように人形を攻撃する——この実験から、人は経験だけでなく「他人を観察すること」からも学ぶという観察学習(社会的学習理論)を提唱した。「見て学ぶ」は、それまでの心理学の常識を大きく塗り替えた。

そしてこのシリーズ第1回、クランボルツ編でこう書いた。

「スタンフォードで出会ったアルバート・バンデューラ(自己効力感の研究で有名な心理学者)との縁も、計画したものではなかった」

クランボルツの「計画された偶発性」理論も、実はバンデューラの社会的学習理論が土台にある。師弟でも上下関係でもない、同僚としての知的な化学反応が、キャリア理論の世界に大きな足跡を残した。

なぜ「自己効力感」に注目したのか

観察学習の研究を重ねる中で、バンデューラはあることに気づいた。

「同じ知識・同じスキルを持っていても、行動する人としない人がいる」

能力があっても動けない人がいる。逆に、能力がそこまで高くなくても、どんどん挑戦して結果を出す人がいる。この差はどこから生まれるのか。

1977年、バンデューラはその答えを発表した。

「行動を決めるのは、能力そのものではなく『自分にはできる』という信念(自己効力感)だ」

これは当時、革命的な考え方だった。「能力を伸ばせば行動が変わる」のではなく、「『できる』と思えるようになれば行動が変わり、結果として能力も伸びる」——順番が逆だったのだ。

自己効力感を育てる4つの源泉

では、「できる」という感覚はどこから生まれるのか。バンデューラは4つの源泉を挙げている。

源泉内容効果の強さ
直接的達成経験自分でやってみて、実際にできた経験◎ 最も強い
代理経験自分に近い誰かが達成するのを見る
社会的説得「あなたならできる」と言葉で背中を押される
情動的喚起緊張や不安をうまく整えられた経験

ポイントは、いちばん強い源泉が「小さくても自分でやってみて、できた」という直接的達成経験だということ。大きな成功でなくていい。「思ったよりできた」という小さな手応えの積み重ねが、次の一歩を軽くする。

Ritaより

正直に言うと、AIを触り始めた頃の私は、自己効力感どころではなかった。「こんな複雑なもの、私に使いこなせるわけがない」と思っていた。

きっかけは、生成AIパスポートの勉強を始めたことだった。最初は資格の勉強のつもりだった。でも、実際に少しずつAIに触れてみると、「思ったより難しくない」「これ、私にもできる」という小さな手応えが積み重なっていった。バンデューラの言葉で言えば、直接的達成経験を少しずつ積んでいたんだと思う。

その延長線上に、AIを自分の会社のCEOに任命するという決断があった。冷静に考えるとかなり突飛な決断だ。でも「小さくできた」の積み重ねがあったから、「これも、やってみればできるかもしれない」と思えた。

そして今、3人のクライアントと一緒に、AIを使った伴走支援をしている。誰かが「あなたにもできますよ」と言葉で背中を押してくれたわけではない。私自身が積み重ねてきた小さな「できた」が、次の「できる」を連れてきてくれた。

自己効力感は、性格でも才能でもない。育てられるものだ。それがわかっているだけで、「今の自分にはまだ無理」という思い込みに、少しだけ疑いを持てるようになる。

AI時代にこそ、この理論が刺さる

「AIに仕事を奪われるかもしれない」という不安の正体を、バンデューラの理論で分解してみると面白い。

多くの場合、それは「能力が足りないかもしれない不安」ではなく、「自分にAIを使いこなせる気がしない」という自己効力感の低さから来ている。

そしてここに、AI時代ならではの朗報がある。AIを使った小さな成功体験は、これまでよりずっと早く、ずっと手軽に作れるということだ。

資料作成でAIに手伝ってもらって「思ったよりうまくいった」。文章を一緒に考えてもらって「これでいいんだ」と思えた。そんな小さな達成経験を、AIは1日に何度でも用意してくれる。自己効力感を育てる材料が、かつてないほど身近になっている時代だと言える。

今日の問いかけ

最後に、バンデューラの理論からヒントを得た問いをひとつ。

「最近、『思ったよりできた』と感じた小さな出来事はありますか? それは仕事でなくてもかまいません」

その小さな「できた」を思い出せたら、それがあなたの自己効力感の種だ。

AIと一緒に「自己効力感」を整理する

バンデューラ理論を自分に当てはめてみたいなら、以下のプロンプトを生成AIにそのままコピペしてみてください。

プロンプト①:直接的達成経験を棚卸しする

私の自己効力感(「自分にはできる」という感覚)を一緒に整理してほしいです。
この半年で「思ったよりできた」「やってみたら意外とできた」という
小さな経験を3〜5個、一緒に思い出す質問をしてください。
最後に、それらに共通するパターンを教えてください。

プロンプト②:次の小さな一歩を設計する

今、私が「自分にはまだ無理かもしれない」と感じていることが1つあります。
それを、バンデューラの「直接的達成経験」の考え方を使って、
今週中に試せるくらい小さな一歩に分解してほしいです。
分解する前に、私が無理だと感じていることについて3つ質問してください。

もっと実践的にAIで整理したい方へ

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「できるかどうか」ではなく、「できると思えるかどうか」。その一歩から、キャリアは動き出す。

このシリーズでは、キャリア理論を「難しい学問」としてではなく、「今の自分に使えるヒント」として紹介してきた。次にどんな理論家をお届けするかは、また出会えたときにお伝えします。

Tunagu Works / Rita

【参考】
Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.
Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. W.H. Freeman.

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