私の推し、BTSのRM——私は「ナムさん」と呼んでいる——の言葉で、仕事柄、何度も思い出すものがある。
2018年、国連でのスピーチの一節だ。
昨日の私は間違えたかもしれない。でも、昨日の私も私だ。今日の私は、欠点も間違いも全部ひっくるめて私自身。これらの欠点や間違いこそが私であり、私の人生という星座の、いちばん明るい星たちを作っている。
(RM「Speak Yourself」スピーチ・2018年9月24日 国連総会より、筆者訳)
初めて聞いたとき、きれいな言葉だな、と思った。でもキャリア支援の仕事を続けるほど、これはきれいごとではなく、キャリアデザインの本質を突いた言葉だと思うようになった。今日はその話をしたい。
「星座」というメタファーのすごさ
この言葉のすごさは、「失敗も肯定しよう」というありがちな励ましではないところにある。ポイントは2つあると思う。
1つ目。星は、消せない。
過去の失敗や間違いは、なかったことにできない。夜空の星を消せないのと同じだ。ナムさんは「失敗を乗り越えろ」とも「忘れろ」とも言っていない。そこにあるものとして、まず認めている。
2つ目。星座の線を引くのは、自分。
夜空の星は、ただバラバラに散っているだけだ。それを「あれは白鳥だ」「あれはさそりだ」と線でつないで意味を与えるのは、見る人間のほう。
つまり——点は変えられないけれど、線は引き直せる。
失敗という点そのものは消せない。でも、どの点とどの点をつないで、自分をどんな形の物語として見るかは、いつからでも選び直せる。ナムさんはそれを「いちばん明るい星」とまで言った。隠したい点ほど、実は星座の形を決めている、ということだ。
キャリア理論も、同じことを言っている
キャリアコンサルタントの勉強をしていたとき、この言葉と同じことを言う理論に何度も出会って、ひとりで興奮していた。
クランボルツの「計画された偶発性」は、キャリアの点は偶然やってくる、という理論だ。キャリアの大半は予期しない出来事で作られる、とされる。だから偶然を排除するのではなく、偶然を活かせる自分でいることが大事——つまり「点は選べないが、拾い方は選べる」。
サビカスの「キャリア構築理論」は、もっと直接的だ。キャリアとは職歴の一覧ではなく、自分が語り直す物語である、という考え方。過去の出来事は変えられなくても、意味づけはいつでも編集できる。まさに、星座の線を引き直す話をしている。
1990年代以降に育ったキャリア理論と、2018年のナムさんのスピーチが、同じ場所に着地している。人がキャリアに迷ったとき、本当に必要なのは新しい点(資格や転職)だけじゃなくて、手持ちの点への新しい線なんだと思う。
職務経歴書から「消したい点」
キャリア支援の仕事を約10年やってきて、よく出会う場面がある。
職務経歴書を前に、「この期間は書きたくない」「この仕事は失敗だったので触れたくない」と、点を消したがる人。気持ちは痛いほど分かる。私自身、転職の最終選考で落ち続けた時期があって、あの頃の自分は履歴のどこにも「うまくいかなかった時間」を残したくなかった(この話は東京ドームの記事に書いた)。
でも面白いことに、話を聴いていくと、その人の強みの根っこは、たいてい本人が消したがっている点のそばにある。
遠回りした期間に拾ったもの。失敗した仕事で初めて気づいた向き不向き。不本意な異動先で身についたスキル。線を引き直すと、隠したかった点が、星座の要になっていたりする。
ナムさんの言う「いちばん明るい星」は、比喩でも慰めでもなく、キャリア支援の現場で実際に起きることなのだ。
やってみてほしいこと:自分の星座を描く
夜、少しだけ時間があるときに、紙に点を打ってみてほしい。
- これまでの人生の「出来事」を、良し悪しを問わず10個くらい書き出す(成功も失敗も、偶然の出会いも)
- そのうち「できれば消したい点」に印をつける
- 印をつけた点と、いまの自分の強み・大事にしていることの間に、線が引けないか考えてみる
うまく線が見つからなければ、それでもいい。「まだ線を引いていない星がある」と分かるだけで、夜空の見え方は変わる。
もっと深掘りしたい人は、キャリア理論の物語を1冊にまとめた本を書いたので、よかったらこちらもどうぞ。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0H98WPWSJ
おわりに
ナムさんはあのスピーチを、「あなたの物語を聞かせてほしい」という呼びかけで締めている。
自分を語ることは、点を並べることじゃなくて、線を引くこと。そしてその線は、何度でも引き直していい。
失敗も、迷いも、全部星座の一部。 今夜も私は、そう思いながら仕事をしている。
【参考】
- RM(キム・ナムジュン)国連総会スピーチ "Speak Yourself"(2018年9月24日・UNICEF「Love Myself」キャンペーン)
- J.D.クランボルツ「計画された偶発性理論」/M.L.サビカス「キャリア構築理論」


