私はヨガの指導者であると同時に、キャリア支援の仕事を10年ほどしてきた国家資格キャリアコンサルタントでもあります。
この2つは、周りからはまったく別のことをしていると見られます。でも自分のなかでは、かなり近いところにあります。どちらも「その人が、自分の心を観られる状態をつくる」仕事だからです。
一方で、混ぜてはいけない線もはっきりあります。この記事では、ヨガ哲学と現代心理学が重なるところ、決定的に違うところ、そして「ヨガは科学的に証明されている」という言い方がなぜ雑なのかを整理します。
先に結論
- 似ているのは「観る」ところ。思考や感情を、いったん自分から切り離して眺める。この手つきがそっくりです
- 違うのはゴール。心理学が目指すのは症状の軽減や生活の回復。ヨガ哲学が置いている終着点は、そもそも「自分」という枠組みからの自由です
- 効果は「研究途上」。有望な結果もありますが、まちまちな結果も同じくらいあります。「証明された」とは言えません
マインドフルネスは、どこから来たのか
いま心理学の領域で広く使われている「マインドフルネス」は、東洋の瞑想実践が医療の文脈に持ち込まれたものです。
- MBSR(マインドフルネスストレス低減法)——1979年、ジョン・カバットジンがマサチューセッツ大学医学部で開発したプログラム。慢性の痛みを抱える患者への取り組みが出発点でした
- MBCT(マインドフルネス認知療法)——ジンデル・シーガル、マーク・ウィリアムズ、ジョン・ティーズデールが、うつの再発予防のために開発。マインドフルネスの実践と認知行動療法の要素を組み合わせたもので、英国のNICE(国立医療技術評価機構)が再発予防の方法として推奨しています
源流をたどると、直接には仏教の瞑想(とくにヴィパッサナー)に行き着きます。ヨガの瞑想も同じ土壌から育っているので、親戚のような関係です。「ヨガから心理療法が生まれた」というより、「共通の祖先がいる」と言ったほうが正確です。
どこまで確かめられているのか
ここは慎重に書きます。米国国立衛生研究所(NIH)の国立補完統合衛生センター(NCCIH)が、瞑想とマインドフルネスの研究状況をまとめています。
- ストレス・不安・うつ:2018年の分析では、マインドフルネスのアプローチは無治療よりも良く、認知行動療法など確立した治療と同程度に働いた。ただし2021年のレビューでは結果はまちまちで、一部のタイプだけが認知行動療法と同等だった
- 痛み:2020年の報告では腰痛に改善が見られた一方、線維筋痛症の痛みには見られなかった。急性の痛みでは強さの軽減の根拠はなく、痛みへの耐性の改善には一定の根拠があった
- 睡眠:2019年の分析では、教育中心の介入よりは睡眠の質を改善した。ただし認知行動療法など既存の有力な方法と比べると差はなかった
「効かない」ではありません。ただ、「他の方法より優れている」と言えるところまでは来ていない、というのが現在地です。
ヨガ哲学の側は、心をどう扱ってきたか
ヨガ哲学の古典『ヨーガ・スートラ』は、ほぼ冒頭でヨガを定義しています。ヨガとは、心の働きを鎮めること(ヨーガ・チッタ・ヴリッティ・ニローダハ)。
そのための手順が八支則で、後半の4つは、いまの言葉でいえば注意のトレーニングそのものです。
- プラティヤーハーラ(制感):外の刺激に持っていかれている注意を、内側へ戻す
- ダーラナ(集中):ひとつの対象に注意を置く。逸れたら、また戻す
- ディヤーナ(瞑想):戻す作業が要らなくなった状態
八支則の全体像はヨガの八支則とは|8つのステップと、暮らしでの使い方にまとめています。
重なる3つのこと
1. 変える前に、まず観る
認知行動療法では、頭に浮かんだ考えを「事実」ではなく「浮かんできた考え」として距離をとって眺めます。ヨガでも、思考や感情は「観られる対象」の側にあって、観ている自分とは別だと考えます。
この、いったん距離をとる手つきは、両者でよく似ています。
2. 過去でも未来でもなく、いま
過去の後悔と未来の不安から離れて、いまに注意を戻す。マインドフルネスの中核であり、ヨガの練習中にくり返し行っていることでもあります。
3. 抵抗をやめて、受け入れる
ヨガのニヤマにサントーシャ(知足)があります。いま在るもので足りていると知ること。心理学の側にも、状況や感情への抵抗をやめる「アクセプタンス」の考え方があります。
どちらも、諦めろという話ではありません。「そうなっている」と認めるところからしか、次の一歩が出ないという点で共通しています。
でも、決定的に違うところ
似ている話だけで終わらせると、たぶん両方に失礼です。違いは2つあります。
違い1:ゴールが違う
現代心理学が目指すのは、多くの場合、症状の軽減と、生活や社会のなかでの機能の回復です。仕事に戻れる、眠れる、人と会える。とても具体的です。
ヨガ哲学が終着点に置いているのは、そこではありません。『ヨーガ・スートラ』が最後に置くのはカイヴァリヤ(独存)——広くはモクシャ(解脱)と呼ばれる状態で、「自分」という枠組みそのものから自由になることです。
社会にうまく適応することが目的ではない。むしろ適応の手前にある「私」という前提を疑う教えです。この差は、けっこう大きいと思います。
違い2:確かめ方が違う
心理学は、間違っていたと分かる形で仮説を検証します。比較する群を置き、数を集め、再現できるかを見る。だから「まちまちだった」という結果も出てきます。
ヨガ哲学は、数千年にわたる実践者の経験と内省の蓄積です。厚みはありますが、反証の手続きは持っていません。
だから「ヨガの効果は科学的に証明されている」という言い方は、私はしないようにしています。科学の側から見れば言いすぎだし、ヨガの側から見れば、科学のものさしを借りないと価値を認められないことになってしまうからです。
キャリア支援の現場で感じていること
キャリアの面談は、答えを渡す場ではありません。少なくとも私はそう教わりましたし、そう実感しています。
やっているのは、その人が自分の考えを外に出して、それを自分で眺められる状態をつくること。「話しているうちに整理がつきました」と言われることがありますが、あれは整理したのが私ではなく本人だからです。
これは、プラティヤーハーラで注意を内側に戻す作業とよく似ています。外側の情報(求人票、他人の評価、平均年収)に持っていかれた注意を、いったん自分の内側へ返す。ヨガをやっていてよかったと思うのは、こういう瞬間です。
ただし、混ぜないようにしています。キャリアの相談の場で、私からヨガの言葉を出すことはありません。相手が求めていない枠組みを持ち込むのは、支援ではないからです。似ていることと、同じ場で使ってよいことは、別の話だと思っています。
心の不調があるときは
最後に大事なことを。
ヨガや瞑想は、医療の代わりにはなりません。眠れない日が続いている、気分の落ち込みが抜けない、日常生活に支障が出ている。そういうときは、医療機関や専門の相談窓口を頼ってください。
静かに座って自分の内側を見ることは、いつも心地よい体験とはかぎりません。しんどいものが浮かんでくることもあります。すでに治療を受けている方は、始める前に主治医に相談してください。
まとめ
- マインドフルネスの直接の源流は仏教瞑想。MBSRは1979年カバットジン、MBCTはシーガルらが開発し、英国NICEが再発予防に推奨している
- 効果は有望だがまちまち。確立した治療と「同等」までで、「優れている」とは言えない
- 重なるのは「観る」「いま」「受け入れる」の3点
- 違うのはゴール(機能回復か、自己からの自由か)と、確かめ方(反証可能か否か)
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参考にした資料
- 米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)「Meditation and Mindfulness: Effectiveness and Safety」nccih.nih.gov(効果に関する記述はこの資料に沿っています)
この記事を書いた人
Rita(矢田部理恵)/Tunagu Works
全米ヨガアライアンス RYT200・産後ヨガ・チェアヨガ指導者。ヨガ歴20年以上、指導歴2019年〜。国家資格キャリアコンサルタント、キャリア支援歴10年。キャリア × AI × ウェルネスをつなぐ活動をしています。
プロフィールはこちら
※この記事は2024年8月に公開し、2026年8月に全面的に見直しました。効果に関する記述を出典にもとづくものへ改めています。
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