キャリアに迷ったとき、読む話|ホランド編

複業・副業

「今日、給食係になったの。よそうのうまくなってきた」

朝8時、娘が玄関で靴を履きながら、得意げにそう言った。

昨日は「黒板係」、その前は「忘れ物係」。

忘れ物箱の中身を帰りの会で発表して、「これ誰のですか?」とクラスのみんなに問いかける係らしい。「すごく楽しかった!」と、その日は特に弾む声で報告してくれた。

クラスで回ってくる係が変わるたびに、娘は新しい役割を報告してくれるけれど、

よく聞いていると温度差がある。

「楽しかった」と弾む声で話す係と、「まあ、普通だった」とさらっと流す係があるのだ。

同じ「係活動」なのに、何にワクワクするかは、その子によって違う。

それを見ながら、ふと自分のことを振り返った。

私はどんな活動に「楽しかった」と弾む声で話したくなるタイプなんだろう? 

広報の仕事、講師業、ヨガ、文章を書くこと──

どれも好きだけど、「好き」の質が少しずつ違う気がする。

その「好きの質」に名前をつけてくれた理論家がいる。ジョン・ホランド。

「人にはもともと“向いている方向”がある」と説いた、職業選択研究の第一人者だ。

ホランドって、どんな人?

ジョン・L・ホランド(John L. Holland、1919~2008)は、アメリカの心理学者。

「パーソナリティと職業環境のマッチング」を生涯にわたって研究した人物だ。

ホランドの出発点はシンプルだった。

「人は、自分のパーソナリティに合った環境を求め、その環境の中でこそ最も力を発揮する」

という考え方だ。

それまでの職業選択の議論は、「適性検査で向いている職業を当てる」という、どこか一発勝負な雰囲気のものが多かった。ホランドはそこに、もっと血の通った視点を持ち込んだ。人のパーソナリティは6つの傾向の組み合わせでできていて、その組み合わせに合う環境を見つけたとき、人は無理なく、自然に力を発揮できる──そう考えたのだ。

彼が遗した枠組みは、今でも世界中のキャリア診断・適性検査のベースになっている。

たとえばホランド自身が開発した「自己診断型職業興味検査(SDS:Self-Directed Search)」はその代表例だし、日本でも厚生労働省が提供する「職業興味検査(VRT)」や、就職情報サイトの適職診断ツールの多くが、このRIASECの考え方を土台にしている。

半世紀以上たった今も色あせていないのは、それだけ「人の本質」を捉えていたからだろう。

タイプ特徴
現実型(Realistic)ものを作る・操作する・体を動かすことを好む
研究型(Investigative)観察・分析・探究することを好む
芸術型(Artistic)創造・表現・自由な発想を好む
社会型(Social)人を助ける・教える・関わることを好む
企業型(Enterprising)人を巻き込む・交渉する・リードすることを好む
慣習型(Conventional)計画・整理・正確さを大切にすることを好む

人はこの6タイプのうち、いくつかを組み合わせて自分らしさを形づくっている。

ひとつのタイプにきれいに当てはまる人はむしろ少ない。「自分は何型」と決めつけるためではなく、「自分の中にどんな組み合わせがあるか」を知るためのモデルだ。


「給食係に弾む娘」をホランドで読み解く

冒頭の話に戻ろう。

娘が「楽しかった」と弾む声で話したのは、人によそったり、配ったり、誰かが喜ぶ顔を見られる係のときだった。一方で、黒板を消すような単独作業の係には、さほど熱が入っていなかった。

これはまさに、社会型(Social)の要素が強く出ている瞬間だと思う。

「人と関わり、誰かの役に立てたとき」に、娘のエネルギーが上がる。

そして、自分を振り返ってみる。

広報・PRの仕事で一番楽しかったのは、データを分析して施策を組み立てる時間(研究型)と、それを人前でプレゼンテシションし、巻き込んでいく時間(企業型)。就活セミナーの講師として、学生の前に立って語りかけ、気づきを引き出す時間は、紛れもなく社会型。そして、こうして文章を書いている今この瞬間は、芸術型の欲求が満たされている感覚がある。

ひとつに絞れない。

でも、ホランドの理論はそれでいいと言ってくれる。

「あなたという人は、いくつかのタイプの組み合わせでできている。その組み合わせ自体が、あなたの個性だ」と。


AI時代に、この理論が刺さる理由

AIは、与えられた問いに対して驚くほど早く「正解らしきもの」を返してくれる。便利だ。

けれども、AIは「あなたが何にワクワクするか」までは決めてくれない。

どんなに精度の高い適職診断ツールが登場しても、「私は何をしているときに、自然とエネルギーが湧くのか」という主観的な感覚は、本人にしか分からない。

ホランドの理論が今も色あせないのは、それが「外側からの正解探し」ではなく、

「自分の内側にある傾向を観察する」ことから始まる理論だからだと思う。

AIに「あなたに向いている仕事はこれです」と言われる前に、まず自分自身の六角形を眺めてみる。

それは、AI時代だからこそ、むしろ価値を増している作業なのかもしれない。

今日の問いかけ

最後に、ホランドの理論からヒントを得た問いをひとつ。

「あなたが時間を忘れて没頭できるのは、どんな種類の活動ですか? 

それは“作ること”“調べること”“表現すること”“支えること”“動かすこと”“整えること”――どれに近いですか?」

正解はひとつじゃない。複数あっていい。

その組み合わせこそが、あなたらしいキャリアのヒントになる。


AIと一緒に「自分のRIASECタイプ」を整理する

ホランド理論を自分に当てはめてみたいなら、以下のプロンプトをClaude(またはChatGPT)に試してみてください。

プロンプト①:自分のタイプ傾向を言語化する


私の興味や得意なことを聞き出しながら、
ホランドの六角形モデル(現実型・研究型・芸術型・社会型・企業型・慣習型)の
どのタイプの傾向が強そうか、一緒に考えてほしいです。

まず、私に質問を5つしてください。
その回答をもとに、私の中で強く出ていそうなタイプを2〜3つ挙げて、
それぞれ「なぜそう思ったか」も添えて教えてください。

プロンプト②:今の仕事・副業との重なりを分析する


ホランドの六角形モデルをヒントに、
私の今の仕事・活動(職種や役割を伝えます)の中に、
どのタイプの要素が含まれているかを分析してほしいです。

■今の仕事・活動:[ここに記入]

分析の上で、「もっと活かせそうなタイプ」や
「これから伸ばすと面白そうな組み合わせ」も提案してもらえますか?

このシリーズでは、キャリア理論を「難しい学問」としてではなく、「今の自分に使えるヒント」として紹介しています。次回はシャインの「キャリアアンカー」をお届けします。


【参考】

Holland, J.L. (1997). Making Vocational Choices: A Theory of Vocational Personalities and Work Environments (3rd ed.). Psychological Assessment Resources.

渡辺三枠子編著『新版 キャリアの心理学』ナカニシヤ出版

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